◆着物に袋が出来るってご存じですか?袋はなぜ出来るのでしょうか? ―着物コラム―

着物に袋があるって聞いた事ありますか?もしかしたら袋というのは業界用語で、全国共通の言葉ではないのかも知れませんが(笑)

 

袋になってしまったお着物を着ると、せっかくの着姿が着くずれしたような残念なことになってしまいます。

 

表地と裏地の二枚の生地から作られた着物を袷(あわせ)と言い、袷の着物には、胴裏と、八掛けという綺麗な色の生地が、袖口・衿先・そして裾回りの内側についています。その表の生地と内側の生地との伸び縮みの差によって、どちらかに「たるみ」が出来てしまった状態を、「袋が入っている」「袋がある」というような言い回しをします。一枚の生地から作られた単衣(ひとえ)の着物でも、部分的にたるみやたわみが出る事があります。また、縫製の際にも、部分的に反りが合わなくてたわみができる事を言います。釣り合い、とも言いますね。

 

身頃、衽、袖から取り外した、胴裏と八掛け。(青い生地が八掛けです)

 

もちろん仕立ての際には、どこにも袋が入らないように、細心の注意を払って作業されています。(一部には、内側にほんの少し袋があるのが良いとされている仕立て屋さんもあるようです。

ではなぜ、袋になるのでしょうか。

それは、「表地と裏地との収縮率の違い」が原因です。収縮は縫い糸におきたり、縫い目におきる事もあります。着物に限った事ではなく、洋服にも見られますから、高い技術を持つ仕立て屋さんはそれを見計らって、糸にゆるみを持たせたりなどの加減をして、縫製されています。

 

こちらの古い小紋のように何十年も経過していても、それほど収縮の差が出ない着物も多くあります。長く着用できますね。

 

繊維の種類によっても違いがあり、化繊はあまり縮むという現象は少ないようです。天然繊維の中でも絹や毛、綿などは、縮みが見られますが、麻はあまり見られません。

今回は特に「絹」素材の着物についてのお話です。

 

縮緬や御召(強撚糸)のように撚りのあるものほど縮む率は大きく、胴裏や大島紬や羽二重(無撚糸)のように撚りの無いものは逆に伸びる事もあります。絹の表地の場合大きく分けて、縮みの原因は湿気や水分により、伸びる場合は強い圧力や張力による物が多いように思います。胴裏は逆に何度も汗抜きや洗い張りを繰り返すと糊気が減ったり、生地がやせたりして伸びる物もあるようです。

 

現代では、気密性の高い住居で、着用機会も少なくなり長期間保管して虫干しの習慣も失われつつありますから、たんすの中で湿気を含んだ着物の表地が縮み、八掛けに袋が入っている状態の物をよく見かけます。

 

八掛けにできた袋(たるみ)

 

撥水ガードされていても、ガード剤には様々な種類の薬剤があり、それは時代によっても違いますから、収縮には効果がないものも多くあります。ですから過去に一度、撥水加工したからといって縮みまで防げるとは限りません。約40年前くらいには撥水加工すると縮まないと思われていましたが、約30年前くらいには、撥水加工では保管中のカビや縮みは防げないという調査報告書が当時の染織試験場(現産業技術研究所)から出されました。その後改良を重ねられて来たので現代では、優れた薬剤と技術による防縮撥水加工もあり、弊社でも新品のお仕立ては薬剤を使わずに人の手の技術だけで縮まなくする優れた防縮加工、㈱広海の【シュリンク・プルーフ】を取り扱っております。 こちらの防縮加工は、単衣や襦袢ならご家庭で手洗いできる加工です。

 

(2002年発行 試験場の業界誌より)

(2009年 新聞記事より)

 

袋は繊維の特性でもあるので、少しくらいなら許容範囲とも言えて、内側に袋が少しある方が着た時に表が反って美しいラインが決まるという説もあるくらいですから、そう気にされなくても着用には問題ありません。それに縮み続けるという物でもありません。またお直しされるとしても、軽い作業で済むものもあるので、依頼される方もいらっしゃいます。

が、着用に支障があるくらいのブカブカのたるみとか、表の裾に目立つたるみとか、そうなってくるとまた話は別。サイズまで変わってしまったら、もう着られませんよね。なぜこんな現象が起きるのでしょう。

 

(表にできた袋)

 

まず、ご安心頂きたいのは、ドライ溶剤の丸洗いでは伸びたり縮んだりはしない、ということです。また専門店のプロの手によるアイロン仕上げも、スチームや温度から蒸気を吸い込むバキュームまで一貫して完備された設備と技術を併用していますから、こちらもご安心ください。さらにプロの手によるしみぬきも、一ヶ所一ヶ所、作業のたびに地の目を整えるという根気のいる作業をするのでご安心ください。特に伸縮する生地の場合はなおさらです。

 

着物の袋はタンスの中に長年置かれている間、気付かないうちに出来てしまった例が多くあります。洋服でもそうなりますが、洋服は吊るしてある事が多いので、気付くのですね。

 

後半では、この辺りの事を詳しくご説明いたします。

 

しるくらんどでは、お預かりして一番始めに袋のチェックをして、きつい場合にはお知らせしてお直しを提案させて頂く事もあります。気になった方は一度着物用のハンガーに吊るして裾の辺りをチェックしてみてくださいね。