◆着物の衣替えの移り変わり・江戸時代と現代 ―着物コラム―

秋が訪れ、いよいよ本格的に着物の季節、木々や山も着物を着て出掛けたくなるような色に色づき始め、風も美しい絹のドレープを一層引き立ててくれます。この秋に女性らしさをワンランク上げて、お友達に差をつけちゃいましょうか⁉️(笑)

 

夏のブログには浴衣の事をたくさん書きましたが、次は単衣の季節です。初めて着物にチャレンジしてみたい!という方のために簡単にご説明致しましょう。

 

着物には、単衣と袷があります。

 

ずいぶんざっくりと分けましたが(笑)わかりやすくする為まずここから入りましょう。貴方が着たいと思っているその着物には、裏地(ブログ・胴裏が着物に及ぼす影響 前編)が付いていますか? 付いていれば、それは「袷(あわせ)」といいます。付いてなければ、「単衣(ひとえ)」です。単衣には、肩当てや居敷当てなどの部分的な裏地が付いているものや、人形仕立て・胴抜きと言って、八掛けだけが付いているものもあります。

 

袷には胴裏と八掛がついています。

居敷当てと衿裏のついた紬の単衣。

八掛と肩裏のみ付けられた胴抜き仕立て。(人形仕立て)

 

そして、着物解説本やネットで検索すると、何月~何月は袷でこの生地とか、何月はこの生地の単衣、とか、いろいろ書かれています。

着付け、和裁、着物雑誌、どれでもよく見かけます。

 

―解説がどれも微妙に違う気がするんだけど、どうしたらいいの…?

 

それは、書かれた時代年度によって、少しずつ違うようです。その理由の一つに、日本の気温や天候の変化 ―つまり熱帯化とも言える温暖化があります。ここ数年、日本の夏は昔に比べてどんどん気温が上がり“熱中症“が叫ばれるようになりました。

涼しかった時代の尺度に合わせるには暑すぎる、という事で夏物のシーズンが少しずつ緩んできたようです。

また、近年話題になった、昔堅気な方々が「これを着ないとダメ!」「こうして着なきゃいけないの!」と加圧気味に押し付ける“着物警察“。それに対して若者目線や新しいセンスでより自由にファッションとしての着物を楽しみたい世代が増えてきたこともあり、臨機応変が取り入れられて緩やかになってきました。

 

ルール多重の着物社会を鋭くルポしてユーザーのみならず、業界でも話題になった片野ゆかの著書。

 

 春、秋などの過ごしやすい季節…単衣

  冬などの単衣では寒い季節…袷

  夏などの単衣では暑い季節…夏物

 

大まかに分けて、まずこれを覚えて下さい。そしてその都度着たい着物に合わせてTPOなどを知ればいいのです。洋服と何ら変わりません。こうして時代の流れに応じて、着物のルールも変化しているのですね。では、少し前はどうだったのでしょう。面白い事実がわかりますよ。せっかくですから少しお話しますね。

 

江戸時代には衣替えはもっときっちりと分けられていたようです。

 

江戸時代と言っても、そんなに遠い昔ではありませんよ。黒船来航がほんの150年前ですから、おばあちゃんのおばあちゃんのお母さんくらいは、その時代に生きておられたのです。そしてまだまだ人々は洋服とは出会ってなかったのですから。

その頃の町民や農民にとって着物は貴重品で、一年中同じ着物を着て過ごす人も多かったようです。もちろん絹は上流層の物で、町民や農民は主に麻や綿を着ていました。

 

「すぐわかるきものの美」より

 

この時代は、現代のカレンダーの太陽暦ではなく、「旧暦」でした。 

では、どうやって一年中同じ着物を着て過ごすのかというと、

 

旧暦5月5日~8月31日(現6月9日~9月30日)が、単衣。

旧暦9月1日~9月8日(現10月1日~10月8日)に、単衣に裏を付けて袷に仕立て直す。

旧暦9月9日~3月31日(現10月9日~5月6日)に、袷に綿を入れて綿入れに仕立て直す。

旧暦4月1日~5月4日(現5月7日~6月8日)に、綿を抜いて、袷に仕立て直す。

 

といった具合です。一年のうち綿入れは約7ヶ月、単衣は約3ヶ月着られていて、袷はほとんど着られていない事がわかります。現代では袷が着物の主流ですから、ほんの150年の間に目覚ましい速さで文化が変わった事が見てとれます。

「日本衣装絵巻」より。綿入れ(上流の方に仕える侍女)

 

きっとこれからも暮らしの中で着物文化は変わって行くのでしょう。でもその良さは変わりません。人々の着物愛が失われる事無く後世に伝えられて行きますように…