★着物に悪影響を及ぼす胴裏(後編 糊持たせ)  ―着物クリーニング―

前回でお話したように胴裏は、現在の黄変防止加工されたパレス地が主流ですが、その前の時代の練色(ねりいろ)、更にその前の紅絹(もみ)もよく見かけます。中には、取り換えないと着物に悪影響を及ぼすものがありますから、今回はそのご説明を致しましょう。

 

まずご注意頂きたいのは所々に濃い黄色い変色や、茶色い変色がある胴裏です。これはカビによるものが多く、裏から出た場合と表から出た場合とありますが、一般的に通気性の低い内側から出るのが多いようです。特に内側には変色が多いけど表には少ない、という状態ならば今すぐ外してください!まだ間に合うかも!

 

胴裏のカビによる変色

 

というのは、内側のカビ変色はやがて表に移るからなんですよ。

 

冒頭の着物は、胴裏のカビが表に移って変色しています。このまま放置するとさらにひどくなります。

 

これは白い胴裏でも、帯芯でも、同じ事が言えるんです。帯にポツポツ黄色い変色が出始めたら、中の芯はカビだらけ!のサインかもしれません。

 

「内側は見えないから、表だけ綺麗にして頂けたらいいです。」

というお客様もいらっしゃるのですが、表を綺麗にしても、裏の変色が透けたりまた移ったりしたら元の木阿弥です。それに、この胴裏や帯芯の変色は真っ白にはなりません。特に胴裏は薄いため、その前に穴が空く事もあります。

 

もう一つのパターンは、この練色時代の胴裏は、厚みのある物が上等とされ、それは重量で判断されていたため、糊を多目につけて重量を増量した「糊持たせ」と言われる、粗悪とも言える胴裏も出回っていました。糊が強いので通気性も悪くなり、カビ変色もきつく、経年により糊ごと変色が表に移ってしまい、大きな範囲のダメージを与えてしまった例も何度もありました。

 

胴裏の糊が変色した事例

長年放置した事例

 

二度と同じ物は作れない着物もありますから、大切な着物だと泣きたくなりますよね…

 

胴裏地をお持ちでなくても、ご用意してお取り換えさせて頂きますが(胴裏代別)、単衣に仕立て直す事はもちろん、胴裏部分だけを外してしまう「胴抜き(人形仕立て)」という方法も最近よく見かけるようになりました。春や秋の袷の季節の気候が昔に比べて暑くなったからかもしれませんね。素材によっては、お端折りも出しやすくなるメリットもあります。悪い胴裏が付いているよりは、そのタイプもお勧めです。

 

人形仕立て。胴裏はなく、八掛けだけがついています。

 

全体にカビ変色が移ってしまいますと、生地も傷みますし補正も大がかりになりお金もかかります。胴裏を取り換えるだけ、或いは取り外すだけで予防出来てまた長く保たれるとしたら、お直しするだけの値打ちは充分にあると言えるのではないでしょうか。

 

さて、次回の主役はその取り外した胴裏です。様々な再利用のアイデアをご紹介させて頂きますので、次回もお楽しみくださいね。