★雨は気になる?気にならない?補正士は雨をどう見るか ―着物クリーニング―
着物を着てお出かけしていたら、突然雨が降ってきて濡れてしまった…そんな経験はありませんか?
ポツポツと軽い雨が少しかかったけどすぐ止んだし、着ているうちに乾いて見えなくなったから別に気にならないわ、という場合もあるでしょう。はい、すっかり消えるほど何も残っていないというのであれば、ほとんどの場合それで大丈夫です。たまに撥水加工がよく効いている着物でも、雨に濡れたからとお手入れに出される方もおられますが、着物は着る物ですから、あまり神経質になると疲れてしまいます。気にしないわ、という楽天的な姿勢は大いに賛成です。
でも、その為にはご自分で納得が行くチェックが出来れば安心ですよね。それを知る為にはまず雨を知る必要があります。と言っても気象天文学の話ではなく(笑)着物を診る補正士がどんな風に雨を捉えているか、簡単にお話しましょう。
――雨に含まれているものとは?――
私達の世界では、雨は“頭より上にあるものを巻き込んで落ちてくる水”です。そのため、いつどこで濡れたか、が、重要なポイントです。例えば、街の中で電線や建物、古い屋根の軒先を伝って落ちた水であれば、そこにあった粉塵(車のタイヤによって巻き上げられた微細なゴムやアスファルトの欠片、剥がれた塗料など)や、錆びを含んでいる事もあります。人混みなら、錆びた傘をさしている人の傘から落ちた水なら錆び、木を伝って落ちたのなら、植物性の物や鳥のフンもあるかも知れません。そんな風に、頭の上にあるものを巻き込んで落ちてくるんですね。そういう汚れた雨は、乾いても汚れは残るので消えません。見つけたらお手入れに出しましょう。
そしてもう一つ忘れてならないのが、“空気中にあるもの”です。例えば、酸性雨です。
- 酸性雨とは… 自動車の排気ガスや工場などが石油を燃やした時に発生する大気汚染物質が原因で二酸化硫黄や窒素酸化物の濃度が上がりpHが酸性に傾いた雨
1970年代、工業の発展と共に様々な公害問題が大きく取り上げられた時、酸性雨も木を枯らしたり土壌を変えてしまったりして自然破壊にまで及び、大問題になりました。
更にご存知のようにそうした成分的なものは100km〜1000kmでも飛んで行くので世界的な規模で環境を良くする取り組みが成され、今はかなり良くなりましたが、雨は今でも酸性に傾いているそうです。
また、他には火山灰を含んだ場合。火山灰は、水に溶けるとアルカリ性になります。火山の近隣の都道府県では大噴火が無くても、雨に含まれている事があります。黄砂も同じくアルカリ性です。(酸性雨を中和するという研究結果もあるようですが、㏗値のバランスがピッタリ合うのかは疑問です)例えば、今、噴火も黄砂も無くても、少し前にあったなら、空気中に漂っていると考えられます。
他には、春や秋には特に花粉も混じっていますよね。場所によっては煤煙もあるかもしれません。
こんな風に雨は様々な空気中の成分を含んでおり、決して蒸留水ではありません。補正士の観点からすると、酸性やアルカリ性、植物性や錆びや粉塵など(ブログ 裾の黒ずみの正体は?)は困難なシミになるので雨に濡れないで下さいと、お願いしたい所です。折りたたみの傘は必ずお持ちくださいね。
ですがその反面、そんなに気にしなくてもいいとも思うのです。
というのは、酸性雨も今は70年代ほどひどくはないし、火山灰を含む雨は地域的なもので全国レベルでは降らないからです。
経験談をお話すると、例えば、富山県の80年くらい前の三度黒(ブログ 三度黒とは?前編)の留袖が、40年50年前に火山灰を含む雨に濡れてその雨の跡が未だに全くとれない、というのを見た経験もあります。ですが、事例は多くは無く、年々減少しているし、現在は染色や加工の技術も進みましたし、70年代の酸性雨を経験したような古い着物は、雨でなくても他の理由でも着られなくなっていたりするからです。
つまり、長年の経験上、雨に少し濡れたくらいで大変な事になったという事例は、地域にもよるので、全く無いとは申しませんが、特に新しい着物なら滅多に無い
のも事実です。(よほどのニュースになるような環境汚染の事件があれば別ですが。)もちろん心配な方は、専門店に依頼しましょう。“雨に濡れました。”と状況を伝えて、ドライの丸洗いではなく水を使って着物のしみ抜きをして下さる技術のあるお店がいいですね。しるくらんどでも丁寧に検品して、一つ一つ水洗いいたします。
現代では、雨の中身というより量、“ゲリラ豪雨”の方が心配ですね。水性汚れは水でないと落ちませんから、びしょ濡れになった着物は洗い張りが最善です。(ブログ 洗い張りと丸洗い)洗い張りに適さない着物の場合は、撥水加工をされると安心です。しるくらんどでも承ります。
また、人畜無害な天然ミネラル成分の力で空気中の有害物質を分解して着物を守る最新の化学技術「デオファクター・キモノ」もございます。
さて、雨という水の事がおわかり頂けましたら、次回は雨の後のチェックについてお話いたしましょう。