☆博多献上帯が献上された理由と、断トツに使いやすい秘密について ー着物雑学ー
博多と言えば「博多織」や「博多帯」が有名ですが、中でも「博多献上帯」は誰もが知っている定番アイテムです。男性女性、伊達締めまで、夏冬を問わず四季を通じてどんな着物にも合わせやすく、締め心地や安定感も抜群という優れものですね。今回は西村織物さんで、博多織を学ばせて頂きました。
博多織は鎌倉時代から歴史がありますが、西村織物さんは1587年より絹糸の商人として起業され、1861年に博多織として創業、今年は創業162年、6代目になる歴史ある老舗です。
ズラリと並ぶ伝統工芸士の盾は、博多織ではいくつもの認定部門があるため、一人でいくつも持っておられる方がおられるからだそうです。
——-博多献上柄とは——–
「独鈷(とっこ)」と「華皿(はなざら)」。太い線を親、細い線を子に見立てた「親子縞(子を守る・家内安全)」「孝行縞(子孫繁栄)」の、モチーフで構成されており、江戸時代に黒田長政が毎年徳川幕府に献上していた物です。黒田城へ、ではなく、江戸城まで献上されていたのですね。お江戸では歌舞伎や間道にも影響を与え、粋好みの人々の間で人気が出ました。
…という所までは着物通ならご存知かも知れませんが、私はかねてから「なぜ独鈷と華皿なんだろう?」と疑問に思っておりましたのでお尋ねしました。お答えは、「鎌倉時代の臨済宗の僧、聖一国師は、人々を幸せにするにはどうすればいいかと日々考え、様々な宗教の思想を学び、取り入れた。密教もその中の一つで、密教法具である独鈷と華皿に願いを込めてそれをモチーフにした」その時代は約780年前、戦乱の世の中でしたから平和を願う帯が織られ、おそらくその語り継がれたエピソードごと献上されたのではないでしょうか。調べると、聖一国師は博多祇園山笠の起源でもあるようで、博多では縁の深い僧なのですね。
——-製造工程——-
博多献上帯は、細い絹糸を桁違いの本数の経緯(特に経糸)で濃密にギュッと織り込まれているのが特徴(一般的な西陣織の帯で経糸1,800本くらい、博多帯は5,000本~15,000本)ですが、製造工程を見るとその秘密がわかりました。そしてもう一つの特徴は、「糸染めから織りまで一括して一社でする」事でしょう。紬や木綿の植物染めの工房のような事を、精錬した糸の高級織でされるのはすごいことですね。例えば、同じく高級織の京都の西陣織は分業ですが、現代では、分業による悩みも起きているのが現実ですから、一社で賄えるのはすごい技術です。
①糸
糸はブラジルの最高級品。なぜブラジルかと言うと、ブラジルには戦後、日本からたくさんの移民が移り住み、養蚕をしていますから、ブラジルの絹は今や日本産より日本産ぽい(笑)のだそうです。
②糸染め
先染めなので、糸に染色をします。その色見本は現在、800色ほどあるそうです。
③糸繰り
いろんな糸繰り機を見て来ましたが、こちらの糸繰り機は木製でした。木製は修理がしやすいのだそうです。糸は経緯共に四角い木枠にかけます。
④整経
次に経糸の準備ですが、ここでとんでもなく大きい機械の登場です!いろいろ見て来たつもりでしたが、初めて見た大きさです。6000本(この時は)もの細い絹糸を、100メートルに渡って同じ張力で立て一列に整理して並べて行かなければならないので、こんな大きな機械になるのですね。そしてこれこそが緻密な博多献上の使いやすさの秘密だと思いました。作業としては、ここまででもう8割が終わっているそうです。
⑤織り
織りは機械の織り機を使われていて、平織り、綾織りなど、機械ごとに織り方の設定がなされています。この時は、珍しい風通織りの機械が稼働していました。
博多献上は、幾何学模様の繰り返しなので、伊達締めや角帯などの細い物は、緯糸の色と柄が同じならば、横に2本とか4本とか並べて一度に織る事が出来ます。経糸の色を変えれば、地色の色違いで織る事も出来ます。これも特徴ですね。
定番の柄なので、紋紙が今でも使われていますが、紋紙を作る人がもういないので、今ではUSBデータも使われているそうです。
もちろん手機もあって、注文があれば手織りもされるそうです。
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製造現場を見せて頂いて、納得する事ばかりでした。ありがとうございました。昔から絹の良さを機能的に表現したシンプルイズベストの極みの博多献上帯。その安定感で、これからも人々に愛されて行くことでしょう。