☆着物に悪影響を及ぼす胴裏(前編 胴裏の移り変わり) ―着物雑学―

着物の内側に付いている裏地を胴裏と言い、胴裏の付いてない着物を単衣(ひとえ)、付いている着物を袷(あわせ)と言います。袷の着物は秋から春にかけて、洋服なら長袖を着ている季節に着用されます。

 

さて、その胴裏ですが、現代の胴裏は変色しないように加工が施されていて白いけれど、古い着物だと薄茶色のような物や、さらに古い時代には紅い物もあります。

 

紅い胴裏は紅絹と書いて「もみ」と読み、明治以前~昭和戦前の時代に紅花で染められました。花を揉んで染める事から「もみ」と呼ばれ、魔除けや病気から女性を守る意味もあったようです。

虫除けなど着物を守る意味もあり、確かに紅絹の裏が付いた着物は100年以上経っても美しく残っていたりするのです。ですが、やがて酸性染料で似せた物が作られるようになって行きました。

 

紅絹の胴裏

 

明治の終り頃から第二次世界大戦が始まるまでには、「富士絹」がよく使われました。くず繭などを精練して紡績した絹紡糸を平織りした、黄色味の柔らかく節の多い生地です。

富士瓦斯(がす)紡績で作り出されたため、その名が付いたもので、輸出も多くされていたそうです。

それとは異なる薄茶色の胴裏は、元々は漂白されて白かったのが変色した物で、昭和40年代後半に黄変防止加工が開発される以前の物ですから、戦前~戦後~昭和50年頃(1975年頃)、大体その頃によく出回っていた物ではないでしょうか。

 

そして、この胴裏は紅絹と違って着物を守ってはくれません。それどころか悪さを働く場合があるので、取り換えた方がいいのもあるのです。(ただ、紅絹は紅い色が落ちるので色移りにはご注意くださいね)

 

胴裏のカビによる変色

 

薄茶色、正しくは練色(ねりいろ:平安時代からの色名。繭を漂白する前の練糸の色)の胴裏は、精練漂白(ブログ先染め先練り前編)で白くされた絹が、空気に触れて酸化することで元の自然の色に戻ろうとしているような物で、もう一度漂白しても生地がやせて薄くなるだけで、真っ白にはなりません。これは着物に悪い影響を及ぼすような物ではありませんが、

 

白い着物や薄色の着物だと裏の練色が表に少し透けるためどことなくくすみ、本来の美しい色目が損なわれることも。特に薄い水色や白地などは、白い胴裏の方が表の色が映えますね。そういう意味では取り換えた方がいいのですが、中色や濃い色なら差しつかえありません。ご本人も年を重ねておられる場合などは、「若い頃の着物がちょっとくすんでちょうどいいわ」とおっしゃる方もおられますし、好みの問題です。

 

着物の身頃、衽、袖から取り外した、胴裏と八掛け。練色ですが、カビは出ていません。

 

でも中には、悪影響を及ぼす胴裏があるのです。私達がお取り換えをお勧めするのはどんな胴裏なのでしょうか?ただ古いから、という理由ではないのです。そのお話は次回のブログ(後編)でお話させて頂きましょう。