☆絹を絞る高級な京都の絞り染めは染色補正も経験と技術が必要です。 ー着物雑学ー
前回は、絞りの浴衣の定番「有松鳴海絞り」についてお話しました。今回は、絹の総絞高級着物で有名な、京都の絞り染めについてお話致しましょう。どちらも国の伝統工芸品に指定されており、お互いに情報交換などして協力しあっておられるそうですから、似通っている所も多くあります。
○ 特徴と歴史
絞り染めは、前回もお話したように8世紀頃インドから「纐纈(こうけち)」という染色方法として伝わりました。古くから都の置かれた京都では、絹の着物に絞り染めをする「京鹿の子絞り」や、「辻ヶ花」が生み出され流行しました。京鹿の子絞りとは、本匹田絞りや一目絞りという細かい絞りの連続模様で、鹿の斑点に似ている事からその名がついた、大変手間のかかるものです。費用や年月のかかる総絞りは江戸時代には贅沢品とされ、奢侈禁止令により禁止されたエピソードは有名です。
○ 工程
①図案 ②型彫(①の図案を元に細い線や、丸い型を彫る突彫りの彫刻刀などを使って型紙を彫ります) ③下絵(②の型紙を青花で刷り込み、絞る位置を生地にプリントします。直接手描きする場合もあります。) ④絞る ⑤漂白(③の青花や汚れを落とします) ⑥染める ⑦水洗(水に漬けて放置)乾燥 ⑧解き(絞るのは何年もかかっても解くのはあっという間。上手な絞り職人の物ほど解きやすい) ⑨湯のし、幅出し(蒸気に当てて手で幅出しをします)
どの工程も技術が必要な手仕事ですが、絞り染めの技はやはり「④絞る」と「⑥染める」でしょう。数々ある絞り染めの中から、有名な一部をご紹介しましょう。
一、本匹田絞り(ほんびったしぼり)
絹糸の手括りで全体に匹田絞りを施す京鹿の子の象徴とも言える絞り染め。一粒9回など絞る回数が決まっており、総絞りだと一反15万粒。手が変わると柄が揃わないため、一人で絞ります。熟練の職人さんでも一日300〜400粒が限界だそうですが、それもすごい数ですよね。素人がやると、一粒括って二粒目をやろうとしたら一粒目が解けるので、一粒しか括れません。二粒目の技の壁をまず越えなければならないそうです。
「針匹田絞り」という、針に引っ掛けて絞る器具を使う方法もあり、これだと一日三千粒括れるそうです。また、「京一目絞り」という柄のラインを描く時などに使われる2回括るだけの手法もあります。
二、桶絞り
檜(ひのき)で作られた丸い桶(おけ)の中に染めたくない部分の生地を入れ、染めたい部分は外に出して、蓋をします。この桶は上部も底部分も蓋になっていて、枠部分に紙を詰めて細い針の釘を打って生地を止めて、上下に蓋をして、麻でできたロープでよく締めて縛り、中に染液が入らないように密閉します。それができたら、なるべく早く染液の中に桶ごと漬け込んで染めます。考えただけで力のいる作業ですね。檜が水分を含んで膨張し、麻のロープは滑らないのでしっかりと密閉されます。染め分けの技法によく使われますが、この桶を作る職人さんはもういないのだそうです。
三、帽子絞り
大きく白く抜きたい場合など、模様にアレンジを加える場合には、帽子絞りの技法が用いられます。
まず模様を輪郭に沿ってぐし縫いをしてその輪郭を絞り、裏側から模様の大きさに合わせて紙で作った芯を入れます。古くは木や新聞紙の芯が使われていましたが、現在では、樹脂の芯がよく使われるそうです。が、白い薄紙を巻いて作る芯は、水を吸って膨らみ生地に密着して防染力が高まるのでより良いそうです。
そして表側からビニールで包み、湿らせた麻糸で縛って染液が入らないようにします。
その他にも、ロープに生地を巻き付けて絞る竜巻絞り、下絵無しで高さを揃えてフリーハンドで絞る手蜘蛛絞り、生地を畳んで板に挟んで締める板締め絞りなど、柄を見れば「えっ、これも⁉」と驚くくらい、その種類はたくさんあります。
○絞りのしみ抜き
私達染色補正の観点から見ると絞り染めは、「技法が多種多様であること」「技法に使われる道具類の成分が残りやすいこと」など、専門的に見逃してはならないポイントがいくつもあります。ですから特に勉強し、ある程度経験を積んでからでないと扱えません。絞りは白場が命ですが、蒸しには入れませんし、また複数の色で染め分ける場合には、筆で色を刺している事もありますから、水作業が出来ない場合もあり、しみは隠すことしか出来ない物も多くあります。
また、例えば振り袖の帯揚げのように、「絞り風」の物は、生地にシボの型が付けてあるだけなので、一度伸びると元に戻りません。
有松鳴海絞りや京鹿の子絞りのように、国指定伝統工芸品の絞りは、綿の場合は洗うとまた何度か復活しますし、絹の場合は裏打ち(裏面に細い糸が均一に張り巡らされていたり、薄い生地が縫い付けられていたり)されているのも多くあります。
そうした丁寧な仕事がされているものはお手入れもやりやすく、たまに出会うと、何人ものすごい職人さんの手を経てきた事が生地から伝わってきて、感動すら覚えます。
こうしてまとめていると、これからも学び続けて行かなければと改めて感じました。どの染めも織りも、本当に奥が深いですね。