♦柄足しするのは不安?四つの例を解説します。―着物コラム―

“このシミさえ無かったらまだ着られるのに…” でも、物によってはとれないシミもありますね。そんな時、和服の世界には、「柄足し(上から柄を描いて隠す)」という加工があります。和服は基本的に手作りだからこそ出来る、昔から用いられて来た方法です。(ブログ♦友禅は手作りされているってご存知ですか? ―着物コラム―

“でも変な感じにならないかしら?” そこが心配ですよね。

私達は、着物のお直し、しみぬき、染色補正という仕事に従事しておりますので、日々勉強と技術向上のための努力は欠かしていません。特にしみぬきが出来ない物をどう生かすかは、職人の技量とセンスによって違ってくる部分です。また、柄を置く位置の決まり事や、文様の意味などの知識も必要です。

今回は、帯や羽織に実際に柄を描いてリメイクした例をご紹介しましょう。(今回の例は、大胆にイメージチェンジをするために広い範囲で柄足しをしていますが、目立たない小さい柄足しをする事の方が多くあります。また、柄物の友禅の場合は、 柄から一部を移し描き致しますので、目立ちません。今回はよりセンスが必要とされる、友禅ではない物の柄足し例をご紹介致します。)

 

 

① たんすに眠っている出番のない帯をリメイク

稲穂の柄があるだけなので、合わせられる着物の季節や柄行きが限定されてしまい、出番の少ない帯。地色の朱色を夕日に見立てて、金色に実った稲穂が輝いているイメージで、キラキラと輝きのラインを入れてみました。するとこんな柄の小紋にも合わせられ、コーディネートの幅が広がりました。華やかさが増してパーティでも使えそうですね。

 

柄足しシミュレーション

様々な色でシミュレーションをしてみました

柄足しの有無

稲穂だけですと、秋の柄の着物にしか合わせにくかったのです(左:柄足し無/右:柄足し有)

 

 

② とれない色移りがある半幅帯をリメイク

全体のあちこちに色移りがある紫色の横縞の帯。柄を何にするか、色をどう合わせるかは、紫は背景として見立ててあまり派手にせず和の感じを強調した柄を生かす方向に決め、何度もシミュレーション画像でチェックして試行錯誤を繰り返しました。また、このように目立つ柄を置く場合には、シミの所だけに施すと、いかにもシミ隠しのように変な位置に来る事があるので、バランスを考えて全体に配置しました。

これで浴衣だけでなく、小紋にも合わせやすい帯になりました。

 

シミュレーション

合う色と、柄を置く位置を何度もシミュレーションしました

柄足し前(上)、柄足し後(下)

あちらこちらにあった色移りが隠せました(上:色移り箇所/下:柄足し後)

浴衣と合わせてみた一例

 

③ 変色があちこちにある羽織をリメイク

全体に大小の変色が多くある羽織は、染め替えやパール加工など、シミ隠しの方法はいろいろありますが、「地色は変えない」「目立たせない」「子供っぽくしない」「派手にしない」という希望に沿って、単純な丸(水玉)を置くことにしました。まず大きさをいろいろ試して決めて、大小2種類の型を作りました。色と配置については何通りものシミュレーション画像を作り、地色のグレーと同色に合わせた色で丸を配置して、違和感のないプリントにしました。写真で見るより、実物はもっと薄い色の水玉です。これで、オトナ可愛い羽織が復活しました。

シミュレーション

色柄、大きさ、数を試行錯誤しました

着用例

 

④ 全体的にくすんだ色の帯をリメイク

この古い綴れの帯地はかなり古い物で、実は帯裏に使われていました。表は綸子で獅子の柄です。経年により全体的に鼠色にくすみ、所々に黄ばみもたくさんありました。が、裏に返しても使えるのが綴れの利点。綺麗な面を表にして、白がくすんだ色を“鼠色”という地色に見立てて色を合わせ、龍の柄に合う鱗柄を背景として全体に配置した大作です。紬の着物などによく合いそうです。

 

太鼓

太鼓柄部分。シミやくすみが目立たなくなりました

前腹

前柄部分

 

こんな風に、柄足しして復活させる場合には、着る人の年齢や好みも含めて全体の調和と、色合わせが最大のポイントになります。ご依頼される場合には、ご自身の年代や好み、着用されるシチュエーションや、合わせる着物や帯など、遠慮なくお申し出ください。ご心配な場合は画像でやり取りしてご納得頂くまで作業にかかりませんのでご安心ください。

 

お直しには、和服ならではのこんな方法もあります。ぜひ一度お試しくださいね。