♢目引き染めをもっと詳しく!染め替えを実際に体験しました。―着物生活―
染め替えについては、ブログ「着物の色を替えたい!染め替えの利点と注意点」でお話しましたね。今回は体験ルポです。染め替えは大きく分けて二種類あって、「現在の色を脱色して染め替える」場合と、「色抜きをせず上から違う色を染めて色を替える(目引き染め)」場合とがあります。筆者は、これまでに自分の着物でどちらも経験しており初めてではありませんが、「興味はあるけど不安…」な方にもおわかり頂けるように、工程をお伝えしたいと思います。同時に、目引きの種類についても詳しく解説致しますね。
今回染めるのは、ブログにも何度か登場したこの小紋の反物です。よく行く老舗の古着屋さんで衝動買い。ビビッドなカラーと個性的な柄は眺めて楽しむには飽きませんでした。が、いざ着るには色も柄も主張が強いと感じるので、殺してしまわずに、そのどちらかを押さえたい。そこで柄の方を生かして「オトナ可愛い」を実現させたいと思います。というわけで、今回は目引き染めです。
① 色を決める
色は、言葉で正確に伝える事は出来ませんから、色が違ったというトラブルが起きないように伝える事が大切です。また、FAXや携帯電話やパソコンなどの通信ツールも、機種によって送り手と受け手で色がぶれてしまう事が懸念されますから、指定する色見本は「確実に受け渡し出来るもの」が適切ですし、染めるのは生地なので、紙より生地見本の方が安心です。染めたい色の端切れを色見本にされる場合は、失わないように大きめの紙に止めて置くと扱いやすくなります。
また、小さな色で見るのと大きな生地に染まったのを見るのとでは、感じ方が違うので、スカーフなどの大きな生地で選ぶのもいいですね。
色見本帳などで好まれる場合は、例えば「平和7622番の色をかけて下さい」
または、「平和7614番の色になるように染めて下さい」
という二通りの指示のどちらなのかを明確にしましょう。
今回は、このブログ用に、実際に染料でいろんな色を点けてみました。今回のように白い部分がある生地の場合は、染める色がそのまま出るので、それも視野に入れて決めます。赤い濃淡の部分を押さえたいけど、青い柄は消したくないので、中濃度の紫寄りのグレーで依頼しました。
一般のご家庭ではこうした事は出来ませんが、こんな風に染める前に生地の端に染める色を点けて見せてもらう事は出来ます。
② 目引き染めの方法
実は目引き染めには浸染としごき染めと引き染めの三つの方法があります。悉皆屋さんや染匠さんは依頼されると、目引きがより綺麗に仕上がるように、生地によって染め方を選んでいるのです。
○ 浸染
反物を染料液の中に漬け込んで熱する。その温度や時間でも色の調整をする。(漬け込まず、ウインスというローラー状の機械を使うやり方もある)蒸しはせず、水洗と湯のしで仕上げるため、比較的安価。炊き込むので擦れが出やすく、柄物の場合色が泣き出て打ち合う事がある。色を途中で見られない。マット(つや消し)な感じになる。端まで染まる。柄よけやぼかしは出来ない。
○ しごき染め(写し糊)
反物を板に張り、染料を糊に混ぜた色糊をヘラでしごいて染める。しみ、擦れ、焼けなどのダメージはしごき染めが一番隠せるので、難隠しのための目引き染めには最適。但し片面しか染まらないので、糸返りが出やすい。ぼかしは出来ないが柄伏せは可能。色は途中では見られない。
○ 引き染め
反物を二本の柱の間に張り木を使って渡し、伸子針で張り、染料を人の手で刷毛を使って染める。両面染まり、地入れ(染め前の下地)も行うので生地に艶も出て、高級感が出る。色合わせが安定しやすく、途中で色を見る事も出来る。工程が多いため一定の日数がかかり、高価。しみ、擦れ、焼けなどは下から浮いてくるため、難隠しには不向き。柄よけやぼかしには最適。
今回のような型染めの小紋でしみもない場合は、どの染め方でも染められますし、色もわかりやすいので、一番早くて安い浸染を選びました。それに、引染めは今まで経験がありましたが浸染は初めてだったからです。
仕上がりまでワクワクドキドキですね。楽しみです…
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さて、出来上がりです。今回はタイミングもよく、1週間で仕上がり(通常は2週間~1か月程度)、金額はイタリアンディナー1回分くらいでした。色も合っています。何となくマットな感じはしますが、今回はトーンを沈めるのが目的なので差し支えありません。これで手持ちの帯や羽織でのコーディネートも楽しめそうです。着る時期の多い単衣にして長く着ようと思います。