♢袷が暑く感じる時にあると助かる人形仕立て(胴抜き)―着物生活―

弊社には、着物の仕立てや寸法直しを請負う縫製部門があり、高い技術を持った和裁士が従事していますが、ブログ担当はお手入れやしみ抜きをする染色補正士で、着物についてあまりご存知ない方からはよく混同されるのですが、和裁士とはまた違う技術職です。

でも、お手入れやしみ抜きの仕事をするためには、着物の構造も知っておく必要があるので、和裁の勉強も先生に着いて学んでいますが、プロではありません。今回は趣向を変えて、そんなちょっとアマチュアな観点からお送り致します。もう留袖も羽織もコートも仕立てたし、今度は何を縫おうかな、と考えていた所でした。

 

そこで思いついたのが「人形仕立て(胴抜き仕立て)」です。

 

 

人形仕立ては、八掛けは付いていますが基本的に胴裏は付けません。日本人形が着ている着物は、見える部分だけ糊で八掛けを貼り付けてあり(縫製されているのもあります)、胴裏はついてませんね。それと同じだから、京都では人形仕立てと呼ぶのが多いようですが、全国的には「胴抜き仕立て」と呼ぶ所も多いようです。

(ちなみに「モデル仕立て」というのは、まだ縫製前の仮絵羽をモデルが写真撮影やショーで着るための仕立て方を言います。そのため、衿肩開きを切らずに仕立てます。)

 

近年では地球の温暖化が進み、毎年猛暑が続くようになりました。それに伴って春や秋も暑い日が増え、袷だと暑いので、単衣の時期が長くなってきました。そんな時に活躍するのが袷に見える人形仕立てです。お手入れの仕事をしていても、昔は、年に一、二回見かける珍しい着物でしたが、今では増えてよく見かけるようになりました。

 

以前、ブログ「★着物に悪影響を及ぼす胴裏(後編•糊持たせ)」でも書きましたが、カビや変色がひどい胴裏が付いた小紋や紬があれば、一度試しに胴裏を外して人形仕立てにされるのも良いと思います。但し、後ほど詳しくお話しますが、ただ外せばいいというわけではなく、技術が必要です。技術を持った専門店にご依頼下さいね。もちろん弊社でも承ります。仕立て代は袷・単衣と同額、胴裏を付ける場合はお好みに応じます。(胴裏代は別途料金)

 

 

また、一言で胴抜きと言っても、個々にそれぞれ部分的に胴裏を付けておられるのが面白いですね。表地に八掛けだけをつけるので、その縫い目が、外からわかってしまう場合があるので、それを防ぐためと思われます。特に柔らか物は、当たりが出やすいので、胴裏に八掛けを縫いつけて内揚げや帯下の隠れる所に付ければ良いわけです。また、汗やそれによる擦れを気にされる方もおられるので、背や袖にも裏をつけたりされますし、振りも裏が見える方がいいという方もおられるようです。ここまで付けたら、もう袷とあまり変わりませんね(笑)でもこうして、温度調節も個々に出来るようです。

 

袖の振りや胴まわりに胴裏を付けた人形仕立て。

 

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さて、今回は実際に自分で仕立ててみました。生地は染大島紬です。泥大島紬は泥が落ちるので、胴裏を付ける方がいいと思います(襦袢が汚れるのを防ぐ)が、これはしごき染めなので大丈夫です。

 

八掛は好みの色を選びます。

 

そして、後ろの内揚げから下のみ、胴裏を付ける事にしました。後ろは擦れやすいので、補強のためです。紬や木綿なども、滑りを良くするためにも、後ろは胴裏を付けた方がいいと思います。

 

胴裏と八掛を付けたところ。

 

今回の生地は、ヘラやチャコでは印が付かない(わかりにくい)ので、糸を使った切りびつけで印付けをする手間がかかりました。

 

切りびつけ

 

先生に教わった特徴の一つは、「人形仕立ては八掛けのフキをほとんど表から見せない」という事です。特に袖口は、毛抜き合わせ(髪の毛一本なのでほぼ表と同寸)でもいいくらいなのだそうです。八掛けのフキというのは、袖口や裾や衽(おくみ)などにちらっと色が覗いている所ですが、着物によって微妙に調節する部分で、職人の技とセンスが出る所で、難所でもあります。

また、人形仕立ては「くけ縫い」をする所が非常に多いのも特徴です。和裁をする方達にも、「私はくけが好き」「ぞべ縫いが好き」などと、好みや得意技がそれぞれあったりしますが、私はくけ縫いより運針の方が好きなので、大変肩が凝りました(笑)。くけ縫いの量で行くと、 袷<単衣<人形仕立て で、一番多いのではないかと思います。

更に、「八掛けに袋が出来やすいので注意が必要」という点もあります。大島は袋になりにくいのでちゃんと沿わせてあれば大丈夫ですが、柔らか物は難しそうで、縫製は熟練者向きと思われます。

 

こんな風に、実際に仕立ててみると、高度な縫製技術が必要な事がよくわかりました。でも、涼しさは単衣と同じで、八掛けの色合わせも楽しめますし、セオリー通りに着なければならない立場の方なども含めて、使いやすいアイテムになることは間違いありません。もし、洗い張り予定のお着物や、春や秋に着たい反物があれば、ぜひこの機会にワードローブに加えてみてはいかがでしょう。