♦わかりやすくておもしろい、結城紬・牛首紬・塩沢紬の違い ―着物コラム―
日本の地方名産の紬織物の違いを語るには、結城紬・牛首紬・塩沢紬の三つの紬を比べるとわかりやすくて、ちょっとおもしろい部分もあるので、ぜひご覧ください。まずそれぞれの特徴から説明致しましょう。
茨城県、栃木県。結城ちぢみも有名。
①真綿より手つむぎしたもののみを使用し、強撚糸を使用しないこと
②模様をつける場合は手くびりによること
③居座り機(いざりばた)で織ること
の、三つの条件を満たした物は特に、国の重要無形文化財に指定されており高価。
〈特徴〉
一、嵩高(かさだか)と言われる糸のため温かく軽い
ニ、しわになりにくく、丈夫で裾切れが少ない
三、洗い張りするたびに光沢を増し毛羽もとれて風合いが良くなり体に馴染む
四、染色堅牢度がよく変退色しにくい
五、肌に触れることで心身を和ませる
つまり、ふんわりやさしい肌触りで丈夫で長持ち。これは繭から直接糸を引き出す生糸ではなく、一度真綿に成形してから引き出す真綿糸を使っているという大きな特徴からなんですね。三代着て味が出るとか、初めは寝間着にして柔らかくするとか、いろんな通説があります。
石川県。石川県指定無形文化財。加賀友禅、能登上布も有名。
白山(はくざん)山麓、白峰村牛首で織られ、よく似た「白山紬」もある。後染め用の白生地としても定評が高い。大変丈夫で釘に引っ掛けても破れず、釘が抜けるという通説から、「釘抜き紬」とも呼ばれる。
〈特徴〉
丈夫で軽く、光沢とツヤがある。濡れても縮みにくい。空気を含んでいて温かい。長持ちして何年経っても生地が弱ったり光沢が無くなったりしにくい。節(ふし)が多い。
牛首紬は何と言っても二頭の蚕が一つの繭を作る玉繭が使われている事が唯一無二の特徴です。丈夫なのも、節が多いのも、空気を含んでいるのも、それが理由です。現在では、経糸に生糸、緯糸に玉糸でも、牛首紬と定義されますが、以前は「釘抜き紬」と称されるのは、経緯共に玉糸を用いた物だけだったそうです。
新潟県。国の伝統工芸品指定。
越後上布(麻)、本塩沢(御召)、小千谷紬、小千谷縮も有名。
越後上布は国の重要無形文化財で、その麻織物の技術を絹織物に応用して作られた物が本塩沢(塩沢御召)。さらにそこに、経糸に真綿糸を使用して生み出されたのが塩沢紬。
〈特徴〉
やはり丈夫で温かく、白、黒、藍などの落ち着いた色合いで渋く、シボのある素材感が特徴で、そのため体によく馴染み着崩れしにくい。動きやすい。また、「蚊絣」と呼ばれる極細の絣模様も特徴的です。
塩沢紬は少しシボ(凹凸)のある手触りが独特です。塩沢地方は雪深い所で、その長い冬に室内での織物が発達したので、いろんな優れた織物が生まれています。
さて、この三つの紬は、並べてみると見た感じも手触りも全然違うので、どれがどの紬なのか誰でもすぐに見分けられるようになります。もし呉服売場に行かれたり、旅行で現地に行かれたりする機会があれば、ぜひ実物を見て(出来れば触れて)下さいね。
ーー経糸緯糸の組合わせの違いが風合いを変えるーー
繭を一旦広げて真綿に整え、真綿糸を引き出し、紡ぐ時に節(フシ)の部分を全体の一割は捨てる結城紬には、節はほとんどなく柔らかいです。一方、丈夫だけど糸を引き出しにくい玉繭をあえて使用する牛首紬は、玉繭60粒を煮て一本の糸ににして引き出すというのですから驚きです。ですから撚りはかけません。それで光沢と節があるのですね。そして塩沢紬は、経糸に生糸玉糸、緯糸に真綿糸という3種類の繭からとった糸をバランス良く配合する事でシボを作っているのです。(ちなみにもっとシボが強い本塩沢は、真綿糸は使用しません。こちらは御召なので、強撚糸を使用します。)
どちらも紬と名がついて、どちらも絹であっても、使う繭と工程を変える事で風合いが全く違う結城紬と牛首紬。そしてその両方を取り入れて更に屑繭ではない生糸もミックスさせた塩沢紬。どれも山奥に閉ざされた村で発展してきた産業で、日本人の知恵と努力を感じます。
どれも共通しているのは、人々はそれが「屑」だとは考えていなかった。繭は蚕の命だと考えられていたのでしょう。その特性を考えて活かして作られた、という点ではないでしょうか。
これらのエピソードが象徴するように、全国の染織品には、一つ一つ工程に技術と工夫とこだわりがあるのです。
そう、他にも有名な紬と言えば大島紬。これがまた全然全く違っていて驚くほどなのです。一度で語れないので、またの機会にお話しますね。
ただ、原料の日本産の繭も、紬を作る人も、だんだん減ってきています。もっとたくさんの人に実際に着て頂いてその良さが、後世まで伝えられて行きますようにと、心から願っています。