◇汗と皮脂(後編・対処法のいろいろ)-着物生活-
前編では汗と皮脂についてお話しました。後編では、その対処方法についてお話しましょう。
着物がきれいなうちに・・・
- 撥水(はっすい)加工を施す
着物にも撥水・撥油加工、防汚加工などいろんなガード加工があります。よそ行きの柔らか物やよく着る着物などは、撥水性のあるガード加工をしておくと安心です。汗抜きもしやすくなります。仕立てた後でもガード加工はできます。
着るときに・・・
- 着付けで汗止めの工夫をする
舞妓さんが胸の上辺りを圧迫する「半側発汗」という作用を利用して汗を止めているのは有名な話ですね。タオルを仕込んだり晒を巻いたりという昔からの方法もあります。さすがに晒は…とはじめは不安に思うかもしれませんが、慣れれば良い仕事をしてくれます。その上に汗をしっかり取ってくれる下着を着る、長襦袢はうそつき襦袢などで省略するなど着物の下を工夫して涼しくできるでしょう。最近は汗止めアイテムもいろんなものが販売されていますね。(*お手入れの立場からは、制汗スプレーはおすすめしかねます)特に暑い日は衿元や身八つや袖口をふさがないように風通しよく涼しげに着られるといいですね。
- 季節によって素材を分ける
汗をかきやすい夏は綿や麻などの素材で水洗いできる着物を楽しむ。絹を着る時は中にタオルなどの汗取りを入れ、秋から春の汗が少ない季節中心に楽しむ。
脱いだ後に・・・
- おばあちゃんの「汗抜き」
昭和40年頃までは、まだ日常に着物はよく着られていて、その頃までは家庭で汗抜きしたりベンジンで拭いたりして何度か着て、汚れが目立ってきたら自宅で洗い張りもしたそうです。
「汗抜き」とは?
その目的は、汗をかいた部分だけ、軽く洗いたい。汗だけをとりたい。
おばあちゃんから聞いたのは単衣の着物などは、脇など汗の方に乾いたタオルを当て、反対側に濡れたタオルを当て挟むようにしてタオル同士をパンパンたたいて汗を乾いたタオルの方に移す方法です。たたくのがミソです。年長者にお話を聞くのも着物の楽しみの一つです。
参考に紹介すると・・・
用意するものは濡らして固く絞ったタオル1枚、乾いたタオル2枚
1.汗をかいたところにぬれタオルを押し当てて(※こすらないよう)水分を与えて湿らせます。
2.乾いたタオルを1枚ずつ両手に持ち、表、裏から挟むようにたたきます。
3.濡らしたところがわじみにならないよう手のひらを押し当てて体温で少し乾かし、パタパタと軽く振ってぼかします。
4.つるし干ししてしっかりと乾かします。
男性の紬や麻の場合は、全体に霧を吹き付けて乾いたタオルで叩き、2~3日吊るしておくと全体のしわも伸びて、また綺麗な着物を着せられた、とも聞きました。
やり方は他にもありますが、どれも共通して言えるのは、‟乾いたタオルだけでもダメ、濡れたタオルだけでもダメ、そしてこすらない”ということです。
着物生活をしていた時代のおばあちゃんの「汗抜き」は私たちの感覚とは違うように感じます。今の時代ですと、霧吹きを使って着物の汗をかいた部分を直接濡らしたくなりますが、この方法は難易度が高いので慣れた方のやり方です。撥水加工されていると失敗が少ないようです。着物によっては、ワジミや擦れ、色落ちなどリスクが伴いますので十分注意が必要です。
安心安全なのは、やはりプロに依頼されることです。私達は経験と修練した技術以外にも、最新の霧を吹く機材や水分をしっかり吸引できる設備も併用して汗抜きをしていますので、‶おばあちゃんの汗抜き″とは全く違います。
何度も着たら・・
- 洗い張りに出す
絹の着物の場合は、何度も汗をかいていたら、やはり洗い張りが一番安心です。そうやって昔の人は着物を長持ちさせて来たという実積もあります。
- しみぬきや仕立て替えに出す
汗や皮脂の成分から、黄ばんだり変色したりするともう洗い張りだけでは直りませんので、しみぬき補正するか、天地替えや繰り回しの仕立て替えが必要になります。仕立て替えはご自分でされる方もいらっしゃいますね。
いかがでしょうか?
汗や皮脂は避けられませんが、様々な対処方法があります。
それと…夏だと、冷房の効いた室内から出ない!移動も冷房の効いた車で!(笑)なんていうのも、よくある対処法の一つです。
それぞれに合った対処方法で、着物ライフを楽しんで下さいね。
関連動画をYouTubeにあげております!ぜひご覧ください。
着物の汗抜き プロ編~基本的な汗抜きの実演~
着物の汗抜き ご自宅編~汗抜きの方法~
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#汗抜き
#洗い張り