★黒留に変色が出ていたら貴重品かもしれません。[三度黒_後編]ー着物クリーニングー
変色する黒色があるということをご存知ですか?
塗装の剥がれなどは別として、家具や衣類などが色褪せて少し白けたり、薄くなったりしているのは見かけますが、変色って見たことありますか?
ちょっと考えてみてください。黒色って無彩色ですよね。赤色でも青色でも黄色でも、黒色と混ぜたら黒色にしかならない、全ての色を飲み込むのが黒色なんです。
その黒色が変色するとはどういうことでしょう…?
なんか不思議ではないですか?
でも、実はその ”黒が変色する” という不思議が起きるのが三度黒なんです。
例えば、酸で変色します。(「酸てレモン!?」はい、それもですが、汗にも含まれます。)
オレンジ色っぽい変色が衿や脇、袖口などに出ていたら、汗からのものと思われます。
また、カビの浸蝕が進んだ場合も、黄色い変色になります。
黒色がオレンジ色や黄色になるって不思議ですよね。
また、色の段差というのもあります。
友禅染めで柄を置いてある三度黒の留袖の場合、柄付近の黒色は、染料の色、地色は三度黒ということになりますから、それぞれの経時変化(時が経つことで褪色や素材に変化が生じることを言います)の仕方や速度にズレが生じるため、初めは同じ黒色だった物に差異ができます。(これを色の段差と呼んでいます。)
他にも、たとう紙の型焼け、ハンガー焼け、手の皮脂焼けなどの事例もあります。
この三度黒の変色、正確にいうと色補正はできないんですよ…
何故なら、染料で染めているのではなく、ログウッド、ノアール、六価クロムという独特な染めで黒色にしているからです。(「染料で染めていない黒『三度黒』とは?[三度黒_前編]」をご覧ください)
染料で一時的に補正して、美しくご着用いただけますが、地色が褪色すると、そこに色の段差が生じて来ます。
それも場合によりけりですが。
私たちはお客様にそれをご理解いただいた上で、染料ではない物に染料で補正をするしかないわけですが、褪色したり、カビが出たりしないよう保管すれば大丈夫です。(しるくぱっくなどをご利用ください。)
ですから、しみぬきの薬品も比翼の一部などにしか使えません。
ーじゃあ、きれいにならないの?
ーいいえ、そんなことはありません。
もちろん程度にもよりますし、柄場は工芸補正や金加工ほか、様々なお直しのやり方があります。比翼や胴裏は取り替えることもできます。
いよいよどうにもならなくなっても、鞄や額など、ほかの物に作り変えることだってできますから、諦める前にご相談くださいね。
何故なら実は、三度黒は現在ではほとんど作られておりません。
原料のログウッドは希少になって手に入りにくいそうです。重クロム酸を水洗するための設備や費用も莫大なため、現在では採算が合わない。それに危険を伴う重労働、技術を持った職人は、果たして継承されているのでしょうか。継続が困難な染色であることは明らかです。
ですから、三度黒は大変珍しい、染めの貴重品です。
もし、たんすの中に変色している黒い着物をみつけたら、先人が残して下さったかつての高級品です。
大切にしてくださいね。
見分けがつかない方や資料をお作りになりたい方は、弊社オリジナルのサービス、キモノカルテをご利用ください。
このような素晴らしい染めが量産されていたなんて、現代ではもはや想像がつきません。かつての職人さんのお話しなど、機会があれば聞いて見たいですね…
(併せて ”染料で染めていない黒「三度黒」とは?[三度黒_前編]”もお楽しみください。)
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